耳をすませばの杉村。
雫の友達夕子の片思いの相手です。
杉村の友達が夕子に手紙で告白して、杉村が夕子に返事をしてやってくれと言ったために夕子は動揺。雫に、夕子の気持ちを考えろと言われた杉村は、雫に告白。
杉村の告白を、雫は断ります。
杉村ってどんな男の子?いい奴なのに雫はなぜ断ったの?そんな疑問を追求してみましょう。
杉村からの告白は昭和感たっぷり
雫と杉村は、同じクラスで気軽に声をかけられる間柄です。杉村は野球部で、夕子は杉村に片思いしています。
夕子の片思いを知った雫は、それとなく応援しています。
ところが夕子の気持ちに気づいていない杉村は、自分の友達からの告白に返事をしてやってくれと夕子に伝えたので、夕子は動揺して、試験中にも関わらず学校を欠席。
困った杉村は雫に相談し、雫から夕子の気持ちを伝えられました。
「困るよ!俺はお前が好きなんだ!」
これは確かに、観ていると恥ずかしいかも。なかなかストレートですね。
でも時代を考えると。
昭和から平成、電話はまだまだ家庭に1台の固定電話。
好きな人への告白は、手紙か直接伝えるかのどちらかです。
生まれた時からSNSが当たり前の時代とは違いますね。
じゃあ平成かと言うと、これも違います。
「耳をすませば」は直球ど真ん中、男の子が告白して、女の子は、赤く頬を染めて「うん」と言うか、「ごめんね」と謝るかのどちらかなのです。
つまり、昭和が舞台なのですね。
そう考えると、杉村はとっても昭和の男の子です。
雫に振られても、次に会った時にがんばって「おはよう」と声をかけるのです。
今まで通りの友達でいるよ、という意思表示をしてくれて、雫をほっとさせてくれます。
夕子にも「あのことだけど俺のほうから断っとく」と気遣いを見せます。
杉原ってほんとにいい奴なのですね。
雫はなぜ断った?
そんないい奴の杉原の告白を、雫は断りました。なぜでしょう。
これも、昭和の女の子だからじゃないかな、と私は思います。
雫にとって、杉原はいい友達であり、夕子の片思いの相手なのです。
好きだと言われても、気持ちは簡単には変えられないのです。
自分の中に「杉原のこと、好きだけどそういう好きじゃない」という気持ちがあるから、断るしかないのです。
けれど、もしも雫が自分の悩みにこだわっていなければ、また夕子が杉村に片思いしていなければ、告白を一度断った雫も、もしかしたら杉村に惹かれることもあるかもしれません。
いろいろな展開があり得るこのシーンですが、雫が自分を見つめ直すための重要なシーンであり、雫と誠司の後の展開のためには、雫は杉村の告白を断らなければならなかったのです。
先ほどから、昭和昭和と言っていますが、この場合の「昭和」は、脚本を担当した宮崎駿監督の中にある「昭和」です。
登場人物はみんな、とても素直でまっすぐです。厳しいことを言う雫の家族も、みんな雫を大切に思っています。
いやな人は誰も出てきません。
だから、「耳をすませば」は本当は「どこにもないファンタジー」なのかもしれませんね。
「耳をすませば」はファンタジー
宮崎駿監督は、耳をすませばについて「タイムリミットのある物語」を作りたかったと言っています。
バイオリン職人になりたい誠司、誠司を追うために自分の夢を追う雫、昔の思い出を大切に抱き続けるおじいさん、みんなどこにでもいそうな平凡な人達に見えるけれど、実際にはいない人達だと思います。
もちろん絶対いないとは思いません。
けれど現実の世界で、自分の気持ちや夢をまっすぐ表現するのは、難しいことです。
回りの人に理解してもらうのも難しいでしょう。
揺れ動くほんとの気持ちを話しても、やっぱりわかってもらえなかったり、否定されたりします。
「耳をすませば」は、そんな現実をすっ飛ばし、人と人とのつながりやコミュニケーションを大切にしています。
だからこそ杉村は、ストレートに雫に告白し、雫ははっきり断ります。
そしてその告白はなかったことにして、二人は友達でいることを選び、雫は誠司に惹かれます。
中学三年生の時期はあっという間に過ぎていき、すぐに別れの季節が来ます。
別れが目の前に迫っているから、そして無意識のうちに、高校に行けば関係が変わることを知っているから、二人はとりあえずの現状維持を選んだのだと思います。
まとめ
杉村は、設定の中でも下の名前がない不思議な登場人物です。
他の人達はみんなフルネームがついているのに、杉村にはなぜ下の名前がないのでしょうか。
私の考えでは、杉村はあくまで雫を目覚めさせ、現実を見つめるように促す役割を負っていたように思います。
雫が一段階段を登るために、必要なきっかけを作る人ではないかと思うのです。
だとしたら下の名前は必要ありません。
「雫の友達だけど実は雫を好き」という設定が大切なのです。
その後の杉村は、もしかしたら夕子の気持ちに応えるかもしれないし、何事もなかったように過ごすかもしれません。
けれど「耳をすませば」は群像劇ではなく、あくまで雫と誠司の物語だから、それでいいのではないかと思います。
けれど、やっぱり杉村はとてもいい奴だから、いつか杉村が幸せになってくれるといいなあと思う私です。